2023年3月、日本ではマスク着用が任意となりました。アフターコロナの世界で、労働者は何を期待しているのか? 雇用主である企業はどう適応する必要があるのか?
2022年11月に米シカゴで開催されたCoreNet Global サミットで、IWG plcの北アメリカ代表であるJeff Doughman氏をはじめ、建築・設計・エンジニアリング・プログラム及び建設管理どを提供するグローバルコンサルティング会社「AECOM」で、シニア・バイス・プレジデント兼グローバル・リアルエステート・リードを務めるLuigi Sciabarrasi氏、人材マネージメント会社「PeopleG2」の創設者であるChris Dyer氏が集まり、パンデミックが私たちの労働環境をいかに大きく変化させたかいついて熱い議論を交わしました。
ハイブリッドワークが主流となる未来に向けて、オフィス環境がどのように変化していくのか? それぞれの専門家の意見をご紹介します。
ここ数年、企業によるハイブリッドワークモデルの導入が加速し、本当の意味での柔軟な働き方が世界中で浸透してきました。個々のライフスタイルに合った、自由な働き方を実現するためのデバイスやソフトウェアの普及など、インフラ整備も一気に進んでいます。
「いつ、どこで働くかを選択する権利は、働く人々の最大の関心事のひとつです」と、言うのはIWGのDoughman。「ワークライフバランスを維持しながら、自宅や地元のフレキシブルオフィスで効率よく働くことができるこの時代に、本社に毎日通勤して時間とお金を浪費するのはもう嫌だと、多くの人がうんざりしているのです」
毎日、長距離通勤をする必要がなくなった従業員は、仕事と私生活の両立が上手くできるようになりました。家族や友人、自分の好きなことに時間を割くことができるようになったのはもちろん、効率的に業務に取り組み、時間内に全ての仕事をやり遂げることができるようになったのです。
このことについてSciabarrasiは、「AECOMでは、息子が出場するスポーツの試合を観に行ったり、娘を学校に送ったり、両親の面倒を見たりする時間を大切にしてほしいと考えています」とコメント。「働き方をフレキシブルにすることは、従業員を大切にすることにもつながります。それは、企業にとってとても価値のあることなのです」
IWGが行った調査結果でも、フレキシブルなワークスタイルが従業員にとっていかに重要であるかを示しています。72%の従業員がリモートワークを希望し、その権利を確保するためなら「10%の昇給を見送る」と答え、3分2の従業員はハイブリッドワークを提供しない企業には「応募すらしない」と答えているそうです。
ハイブリッドワークに移行した企業では、様々なポジティブな効果が表れています。従業員が自分のライフスタイルに合った働き方をすることによって、幸福度が上がり、従来よりも熱心に業務に取り組むようになり、その影響で生産性も向上しているといいます。Doughmanはサミットで、米スタンフォード大学の経済学教授であるニコラス・ブルームが発表した最新の研究結果を紹介しました。
同研究によると、ハイブリッドワークモデルを導入した企業は、従業員の生産性を3〜4%向上させることに成功。それほど大きな数字ではないものの、こうした効果の積み重ねが企業の収益に大きな影響を与える可能性は否定できません。
ハイブリッドワークモデルは、企業が有能な人材を確保するための有効な手段でもあります。自分の役割や職場環境に満足している従業員は退職する可能性が低くなる傾向にあり、ハイブリッドワークモデルを導入している企業では従業員定着率が高まり、離職率が35%も低下したというリサーチ結果が出ています。
近年、アメリカで巻き起こっている「Great Resignation(大量離職)」と呼ばれる現象は、理想の環境が手に入らなければ、転職してでもそれを手に入れたいという従業員の本音を象徴しています。IWGの調査でも、週5日オフィスに戻るよう求められた場合、50%の人々が現在勤務している企業を「退職する」と回答しています。
「従業員に必要なデジタルツールを与えてリモートワークをしてもらった結果、生産性が向上し、クライアントも満足しているのであれば、彼らを週5日間オフィスに押し込む必要はありませんよね。 時代は進化しているのです」とSciabarrasi氏は主張します。
さらに、ハイブリッドワークモデルがサステナビリティに結びついているという点も見逃せません。従業員の通勤時間を短縮することは、企業が二酸化炭素排出量を削減するためにできる、唯一にして最大の方法のひとつです。IWGが最近行った調査では、77%の従業員が通勤時間を減らすことが、気候変動と闘うことにつながると答えています。
2025年までに労働人口の約30%を占めるとされるZ世代は、企業が掲げる環境や社会的目標をとりわけ重要視しています。IWGがこの年齢層を対象に行った調査では、48%が明確なESG(Environment、Social、Governance)目標を持たない企業への入社を拒み、50%がESGに関する目標を後退させた企業からは「退職する」と回答しています。
Dyer氏は「ハイブリッドモデルは1種類ではない」と指摘しています。それぞれの企業のニーズに合わせた綿密なハイブリッドワークモデルの戦略が必要なのです。Sciabarrasi氏もこの意見に賛同し、正しいアプローチにたどり着くためにはトライ&エラーを繰り返す必要があると続けました。
世界各国で多様な事業を展開するグローバル企業であるAECOMは、ハイブリッドワークモデルへの移行に伴い、実験と調整を繰り返すことになると予知していたといいます。「2016年にこのモデルを導入したとき、リースが満了する物件からエリア別に実験を始めていきました。今では世界中にある当社グループの物件の半数が、何らかのスタイルのハイブリッドモデルを導入し始めています」
AECOMでは、ハイブリッドワークを徐々に広げていくことで、「何がうまくいき、何がうまくいかないかを学ぶことができた」と、Sciabarrasi氏。その結果、ハイブリッドモデルがビジネスとして機能し、従業員の幸福度も向上させることができたそうです。「新型コロナウィルス禍で、私たちは多様なハイブリッドワークモデルが必要であることに気づきました。そこで、人事やIT、不動産に至るまで全ての部署と協力し、それぞれの地域、ビジネススタイル、従業員ごとにカスタマイズしたハイブリッドモデルのフレームワークを作成したのです。完成までに1年かかりましたが、ビジネスと従業員の成長に必要な、柔軟で力強い基盤を構築することができました」
ハイブリッドワークモデルが普及した世界では、本社であれ、フレキシブルオフィスを利用したサテライトオフィスであれ、人々が過ごしたいと思うような刺激的でクオリティの高いワークスペースを提供することが大切です。
Doughmanは、「つながりや協力を促し、創造性を発揮するために再び従業員を集めるのであれば、その目的に合った場所でなければなりません。魂を感じられない無味乾燥な間仕切り型オフィスの時代はもう終わったのです」と、話します。
さらに、Sciabarrasiが「従業員が電話をかけたり、メールを送ったりするためだけにオフィスに来ると思ったら大間違いです」と続けます。「オフィスに来るには、何か他の目的があるはずです。当社では、オフィスに出社した従業員にはそこを社交の場と思ってもらい、会話を楽しんでもらいたいと願っています」
社員がいつ、どこで、どのように集まるかを意図的に考えてデザインするハイブリッドモデルは、強い企業文化を育み、創造性とコラボレーションを刺激し、従業員の幸福度を底上げすることにつながります。
本社オフィスは、会社のミーティングやトレーニング、イベントに参加する中心的な場所として機能します。ハイブリッドワークモデルを導入し、自宅や近隣のフレキシブルオフィスで過ごす時間と組み合わせることで、ワークライフバランスを維持しながら、個々の業務に集中できるだけでなく、同じ考えを持つ他社の従業員とのネットワークを広げるチャンスを持つこともできます。
いまや、全従業員が同じ時間帯に本社にいる必要はなくなりました。企業は不動産の適正化を図り、長期契約に縛られることのないフレキシブルなワークスペースを従業員に提供することができます。Global Workplace Analytics社の調査によると、ハイブリッドワークモデルは従業員1人当たり年間11,000ドル(約144万円)のコスト削減につながるとされています。
「間接費の削減につながるハイブリッドモデルが、収益性を高める手段であることは明らかです。企業は馬鹿ではありません。利益を上げるために、そして、従業員や株主のために正しい選択をするでしょう」と、Dyerは述べています。
IWGが、ロンドン証券取引所に上場するFTSE250のCFOを対象に行った最新の調査では、87%がハイブリッドをより手頃なビジネスモデルとして捉えていることが明らかになりました。世界的な景気後退が予想される不透明な経済情勢の中、ハイブリッドモデルを採用することで得られる利益は、ますます重要かつ貴重なものとなり、無視することは難しくなるでしょう。
Original Source:
-IWG Blog
この記事の執筆者:
日本リージャスホールディングス株式会社
世界120カ国、3,300拠点、ユーザー数800万人のネットワークを有するフレキシブルオフィスの最大手、リージャスグループ(IWG社)。その日本国内事業展開を担う日本リージャスホールディングス株式会社は、1998年の事業開始から現在までに47都市、172拠点(2022年6月末時点)を開設してきました。その強みは出店地域の特性に応じて様々なタイプのフレキシブルオフィスブランドを展開している点です。国内のリージャスは、高級ブランド「Signature」(シグネチャー)、コミュニティ型の「SPACES」(スペーシズ)、ハイグレードな「Regus」(リージャス)、リズナブルな「オープンオフィス」、交通機関隣接型「リージャスエクスプレス」の5ブランドを展開し、多くの皆様に快適なフレキシブルオフィスを提供しています。